水中ドローンの歴史
水中ドローンは、ドローンと呼ばれるだけに近年、登場してきたものと思われがちですが、実は古くから存在しています。もちろん、日本で水上ドローンがよく知られるようになったのは最近のことですが、アメリカ、イギリス、ノルウェーの3ヶ国で開発が始まったのは、今から50年ほど昔のことなのです。
水中ドローンROV
歴史ある水中ドローン。「Remotely Operated Vehicle」の頭文字をとってROVと呼ばれていました。遠隔操作により水中を航行するROVは、深海での救助活動や、ガス田や油田の開発において使用する目的で開発が行われたのです。アメリカ海軍は1960年代、米軍機の墜落事故などにおける海底からの物体回収のためにROVを投入し、実際に成果を上げています。
軍用としてのROVは、このように物体を回収する目的だけではなく、掃海を目的としたものも開発されました。1970年代にフランスが使用を始めた機雷処分用のROVです。その後はアメリカやスウェーデンも機雷処分用ROVを実用化しています。近年は日本も機雷処分と機雷探知の能力を持つROVを投入。アメリカ海軍では、これまでに使用していた有人式の深海救助艇から、ROVをベースにした無人式の潜水救助システムに置き換えています。
しかし、この頃のROVは、まだまだ潜行深度も浅く、人間が潜ることのできる限界の深度を超える潜行力を身につけたROVが登場するのは1980年代まで待たなければなりませんでした。以降は景気の悪化もあり、テクノロジーの進歩は停滞することもありましたが、石油化学などの工業分野を中心に幅広い分野での利用を背景に、着実に進歩。かの有名な沈没船タイタニックや、セントラル・アメリカなどの調査において、ROVはひじょうに大きな役割を果たしました。特にセントラル・アメリカの調査では、金塊の引き上げにもROVが使用されました。最新の技術が投入されて開発されたROVは、すでに水深3000メートルまで潜行できる能力を持っています。海底探査の世界は、ROVの進化により、今後、劇的な変化を遂げるかもしれません。
このように進化を続けてきたROVは、空中をヘリコプターのように自在に飛び回り、レジャー目的だけではなく、災害救助や調査など幅広い分野で活躍するドローンとかなり似た働きを持つため、水中ドローンという名前で呼ばれるようになりました。形状には違いがあるものの、水中での動き方はまさしくドローン。実際、ドローンを水中に沈めてしまっても、水中ドローンと同じようにコントロールすることはできるそうです。ドローンは一般ユーザーにとっても手の届くものになりましたが、水中ドローンも軽量化や小型化と共に比較的安価になったため、レジャー分野での利用も進んでいます。ここまで進化した水中ドローン。軍用と重なる部分もありますが、水中での捜索作業や現場の状況を確認する目的でも使用されています。2011年3月に発生した東日本大震災にともなう大津波被害。遺体捜索や瓦礫の状況を探査するために、民間企業や大学などが開発した水中ドローンが投入されました。
水中ドローンは、このほかにもプラントや石油パイプラインの開発、造船、建設など幅広い分野で利用が進んでいます。一般向けに販売されている水中ドローンの中にも、工業分野や研究での使用にも耐える、深さ300メートルまで潜れるものもあります。
可能性広がる水中ドローン
水中ドローンは、約50年という歴史を持っています。軍用、水中探査、災害救助、工業や研究…進化を遂げた水中ドローンは、すでに一般ユーザーにも手の届く存在になっていて、趣味や個人事業にも役立てることが可能です。これからも技術の進歩と共に、水中ドローンは私たちが知らなかったことや見たことのなかったものを見つけ、体験したことのない喜びを与えてくれることでしょう。
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